8:30 起床
今日はあらかじめ決めた予定がないため、ゆっくりと始動。
天気が良さそうなので、少し足を延ばしてコロニア・グエル教会まで行くことにする。バルセロナの中心部から片道1時間ほどかかるため、前回バルセロナ訪問時(2025年2月)は断念したのだ。その後の予定は未定。
9:00 朝食
サラダをたっぷり食べる。いろいろ試してみたが、生ハムはパンに挟んでサンドイッチにして食べるのが一番美味しい。


濃厚なチョコレートクッキーを食べる合間にホオズキをつまむと、ほんのりとした酸味が口直しになる。

10:00 ホテル出発
コロニア・グエル教会へは地下鉄と鉄道を乗り継いで行く。

異国の駅で電車のチケットを買うのは、案外むずかしい。券売機のユーザーインターフェイス(UI)が国によって異なるからだ。目的地は路線図から指定するのか、それともアルファベットで検索するのか。UIは、その国の文化や思考プロセスに基づいて設計されているので、初見でチケットの買い方が分からないときは、徹底的に分からない。
今回は「T-mobilitat」という交通系ICカード(日本のSuicaのようなもの)を購入したい。言語を英語に切り替え、画面の指示通りに進めると、スムーズに購入できた。スペインとは相性がいいようだ。


11:20 コロニア・グエル駅
コロニア・グエル教会の最寄り駅に到着。


コロニア・グエルについて
コロニア・グエルは、バルセロナ郊外にある工業集落。1890年、実業家エウゼビ・グエルが繊維工場を移転し、労働者とその家族のために建設した。工場と住宅だけでなく、学校、文化施設、教会なども整備され、一つの街として機能していた。建物の多くは当時のカタルーニャのモデルニスモ建築家たちによって設計され、現在もその街並みが残っている。
最盛期には1,000人を超える労働者が働いていたが、繊維産業の不況によって1973年に工場が閉鎖。その後、住宅は住民に売却され、工業集落としての歴史に幕を下ろした。現在は歴史的な街並みを保存しながら、人々が暮らし続けている。グエルはガウディの最大のパトロンの一人で、街の教会の設計を彼に依頼した。
教会の入場チケットを販売しているインフォメーションセンター(IC)へは、歩道上の青い「足跡マーク」についていけばよい。


ICでチケットを購入して2階に上がると、ちょっとした博物館になっていた。街を散策する前の予習にピッタリだ。




12:10 コロニア・グエル教会
ICから教会へは徒歩数分。

コロニア・グエル教会について
コロニア・グエル教会は、ガウディが設計した未完の教会。1908年に着工したが、1914年にガウディが建設から離れ、壮大な教会の計画は実現しなかった。現在残っているのは、地下聖堂(クリプタ)に相当する下層部分と入口のポーチで、2005年に世界遺産に登録された。
この教会は、ガウディがサグラダ・ファミリアに応用するさまざまな建築技術を実験した場所として知られる。特に有名なのが、紐と重りを吊るして建物の構造を検討する「逆さ吊り模型」。重力によって自然に生まれる曲線を上下反転させることで、柱やアーチの合理的な形を導き出した。いわば、サグラダ・ファミリアの実験場だったのだ。


教会を見て、ある考えが頭に浮かんだ。これ、ロッキーじゃないか。映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に登場する異星人ロッキーである。クモや甲殻類に似た五角形の多足生物であるロッキーのデザインは、この教会にインスパイアされているのではないか。グエル公園の「洗濯女の回廊」や「高架橋」でも感じたことだが、疑いがますます強くなった。


まず教会の外観を見る。未完成ではあるが、サグラダ・ファミリア以上に独創的なデザインだ。ステンドグラスがはまった窓の形状はどこか神秘的。


外壁には蝶や魚の装飾が施されており、直接的に「自然」が表現されている。


一見原始的だが、自然との調和と神秘性が緻密に計算されたデザインは、きっと柱の角度が10度ずれても、屋根が30cm低くてもダメなのだ。ガウディにとっては「これしかない」という設計になっているように感じる。当然、十分な強度も担保されていることだろう。


教会の前のポーチにはベンチが設けられ、ちょっとした休憩所のようになっている。


教会に入ろうと歩を進めるが、素朴で華やかな装飾に足が止まる。グエル公園にもあった、トレンカディス技法のモザイク装飾だ。


モザイクの前には一羽のツバメ。ここでも建築と自然が融合している。

教会に入って驚いた。

複数の柱が複雑な造形の天井を支えている。まるで室内に森があるようだ。


正面の祭壇を中心に、周囲をステンドグラスが取り囲む。


色彩豊かなステンドグラスは、まるで子供が無心に描いたような素朴な模様だ。


太陽が動くたびに、床に映るステンドグラスの色彩と形も変化する。シンプルだが、ここでもガウディの「光と影のショー」は健在だ。


出口の方を見ると、暗く厳かな雰囲気。


椅子のデザインも実にガウディ的。実際に座ってみると、体がすっぽりと収まった。目に美しく、機能的。人間工学的なデザインだ。


聖家族像(マリア、少年イエス、ヨセフ)の横に階段があった。


立ち入り禁止のロープもないので、上ってみると思いがけず広い空間があった。何のためのスペースだろう。


ここからは教会内部を見渡せる。祭壇やステンドグラス、天井も間近に見える。この世のものとは思えない、異形の建築だ。






教会を出て屋上に行くと、造りかけの構造物と鐘楼があった。



周辺には、建設に使われるはずだった石材も残されている。


ツバメの鳴き声を聞きながら、「もし、この教会が完成していたら」と想像してみる。


未完成の小さなコロニア・グエル教会だが、ガウディのエッセンスを濃縮したような独創的な魅力を持つ建築物だった。「完成していないのに、完成している」と感じるのはなぜだろう。
13:30 コロニア・グエル散策
工業集落として栄えた頃の街並みが残っていると知り、散策しながら駅に戻る。

【コロニア・グエルの中心広場】
中央には、街を築いた実業家エウゼビ・グエルの記念像が立つ。


【旧繊維工場】
かつての繊維工場。門には「COLONIA GÜELL」の文字が残り、その奥にはレンガ造りの工場と高い煙突がそびえている。


【カ・レスピナル】
ガウディの協力者ジョアン・ルビオが設計した、かつての工場幹部の住宅。円筒形のバルコニーや菱形の装飾など、レンガを駆使した独創的なデザインが目を引く。


【工場労働者が暮らした住宅街】
今も住居として使われており、色とりどりの外壁を鮮やかな赤いブーゲンビリアが彩る。


【旧教師住宅】
まるで小さな城のような住宅。設計したのはガウディの協力者、フランセスク・ベレンゲールとされる。


【ビブリオテカ・ポプラール・ジョアキン・フォルゲラ】
レンガで縁取られた独特な形の窓が印象的な旧図書館。

【テアトレ・フォントバ】
工場労働者たちの娯楽や文化活動を支えた劇場。現在も地域の文化施設として使われている。

【カ・ロルダ】
石積みの壁とレンガの装飾が印象的な建物。とりわけ、透かし模様を施した煙突の造形が面白い。


この、工場を中心に生まれた街に、グエルはガウディの教会を建てようとしたのだ。
ガウディの教会を見に来たつもりが、街をじっくり歩くことでグエルの街づくりに込めた志が見えてきた。単に労働者を住まわせるための住宅地ではなく、働くこと、学ぶこと、楽しむことが一つの街の中で完結するように造られていた。
この後の予定を決めてこなくてよかった。
【街路樹の大発見】
駅付近まで戻ったとき、何気なく見た街路樹に「あっ!」となった。この幹から枝が分かれる部分の独特な形状は見たことがある。


いや、さっき見たばかりだ。教会内部の柱の形状に似ているのだ。


他にも見覚えがある。サグラダ・ファミリアの柱の方がそっくりだ。




コロニア・グエル教会を手掛けていたガウディは、こんな木を見て柱のデザインの着想を得たのかもしれない。
「人間は創造しない。人間は発見し、その発見から出発する」というガウディの言葉※を思い出した。
※出典:東京国立近代美術館「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(2023年)公式資料
そして、その百年以上後に『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のスタッフがグエル教会を見て、「ロッキー」のヒントを得ていたとしたら、こんなに面白い話はない。

16:00-18:00 ホテルで昼寝
いささか疲れたので休息。
18:30 夕食
事前にチェックしておいたレストラン「LA FLAUTA」で夕飯。




前菜代わりにパドロン・ペッパー(青トウガラシ)の素揚げを注文。海の幸が評判の店なので、タラのアイオリ・蜂蜜ソース、オマール海老のパエリアも頼んだ。どれも素材の味を生かした素朴な味付けで美味しい。




昼ごはんがバナナ一本だったので、デザートにチュロスまで注文。ホットチョコレートにつけて食べると、疲れが吹き飛んだ。

19:40 レコード屋廻り
Google Mapsで調べると、まだ営業中のレコード屋があったので行くことに。
【Daily Records】
ビートルズのスペイン盤LPを4枚購入。


【Revolver Records】
ビートルズのシングルを2枚と、ジョン・レノンのシングルを1枚購入。


ジョンの「Power to the People」はPlastic Ono Band名義ながら、ジャケットにはビートルズ時代のゲット・バック・セッションの写真が使われていて面白い。「Paperback Writer」はオランダ盤、「Let It Be」はフランス盤だけど、いいスペイン土産になった。
まだ日が落ち切らず、昨夜とは違う表情を見せる旧市街を散策。






21:00 夜のガウディ建築巡り
ホテルにレコードを置いて一休みした後、ライトアップされたガウディ建築を観るために再び街へ。この期に及んでまだ活動を終えないとは、我ながら貧乏性というか、なんというか。
【サグラダ・ファミリア】
光と影のコントラストが強まってより立体的に見える。塔の先端の星が輝き、美しく夜空に浮かび上がる。




教会内部に照明があるため、ステンドグラスが外に向かって光を放っている。これは昼間は見られない神秘的な光景だ。


池の水面にサグラダ・ファミリアが映ると聞いて公園に行ってみたが、期待したほど映っていない。今夜は生誕のファサードの左側のライトが点いておらず、光量不足のようだ。


【カサ・ミラ】
波打つような石造りの外壁は、ライトアップによって陰影が深まる。


しかし、それ以上に面白いのが入口から覗く内部だ。昼間はよく見えなかった天井の起伏と淡い色彩の天井画が、照明の光で浮かび上がる。


【カサ・バトリョ】
外壁のベランダに陰影が付き、大きな窓から漏れる光とともに、昼間とは印象が大きく変わる。


昼間は青のイメージだった2階のメインサロンは、赤い明かりが灯されて雰囲気が違う。


屋上のドラゴンの背中は、照明に照らされてなまめかしい。


カサ・バトリョを見終えた時点で23時。夜も更けたので、地下鉄でホテルに戻る。


25:00 就寝
コロニア・グエルを訪問したことで、自然を模倣してデザインするというガウディの建築思想を、はじめて深く実感できた。
昨夜、ガウディは「光と影の魔術師」だと思った。今夜、ライトアップされた建築物を見て、その思いがさらに強くなる。
夜にしか現れない美しさがあるのだ。

