7:00 起床
今日はガウディが手掛けたグエル公園、カサ・ビセンス、サグラダ・ファミリア、カサ・バトリョの4つの世界遺産を巡る予定。サグラダ・ファミリアは昨日に続く再訪となるが、今回は生誕のファサードに上る。
9:30 グエル公園
ホテルから歩くと1時間も掛かるため、タクシーを利用。開園時間に到着したところ、すでに長蛇の列だ。朝一番の入園を計画していたので、チケットは事前に予約済み。

グエル公園(Parc Güell)について
グエル公園は、ガウディが実業家エウゼビ・グエルの依頼を受け、1900年から1914年にかけて住宅地開発プロジェクトとして手掛けた。当初は富裕層向けの住宅地として計画されたが、販売が振るわず、計画は頓挫した。その後、市の公園として開放され、1984年に世界遺産に登録された。自然と建築を融合させた、ガウディの代表作の一つ。
【ドラゴンの階段】
「自然広場」を通って、「ドラゴンの階段」へ向かう。最初にグエル公園の象徴ともいえる「モザイクのドラゴン(サンショウウオ)」を見に行くのだ。


目論見通り、まだ観光客はまばら。


「モザイクのドラゴン(サンショウウオ)」の色鮮やかな造形を色々な角度からじっくり見ることができた。割れた陶器やタイルの破片を組み合わせるこのモザイク技法は、「トレンカディス(Trencadís)」と呼ばれる。




【列柱ホール】
ドラゴンの階段を上ると、列柱に支えられたホールがあった(天井の上は、先ほど通った自然広場)。


シンプルなデザインのホールだが、天井の飾りは何を表しているのだろう。空に浮かぶ太陽や星のようにも、海底に漂うヒトデにも見える。


天井の装飾をデザインしたのは、ガウディの協力者ジュゼップ・マリア・ジュジョール。


【洗濯女の回廊】
列柱ホールの階段を下りると、唐突に原始の世界が広がる。色彩豊かなドラゴンの階段と列柱ホールからすぐのところにあるとは思えない、茶色と緑色の世界。


整然と柱が並ぶホールとは対照的に、この回廊は波のうねりのような曲線を多用している。


ただ、両者には共通点も感じる。それは、いずれも合理的なデザインだということ。自然の地形を活かしたように見えるこの回廊の柱と天井も、計算し尽くされているのだろう。

ちなみに「洗濯女の回廊」という名前は、洗濯道具を頭に載せた女性の姿を模した柱が一本あることに由来するそうだ。残念ながら、その柱には気づかなかった。
【自然広場(かつてのギリシャ劇場)】
開園から1時間半が経過し、広場には多くの観光客がいた。


ドラゴンの階段、列柱ホール、洗濯女の回廊といった見どころを巡り終え、しばしモザイク装飾のベンチで休憩。気温20℃。日差しは強いが、乾燥しているので快適。バルセロナの街並みと地中海を見ながら美しいベンチで休憩なんて、最高の贅沢だ。


広場の奥まで行くと、遠くにサグラダ・ファミリア、その先に地中海が見えた。


【高架橋】
公園の入口の方に戻ると、土色の高架橋があった。先ほどの「洗濯女の回廊」と同じような質感と構造だが、ここでは橋の上を歩くことができる。




橋の欄干は岩のベンチになっており、その両脇には松明のような巨大なオブジェ。オブジェの上部には、火の代わりに植物が植えられている。


この風景から連想したのは、映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に登場する異星人「ロッキー」。その体表は、岩のようなゴツゴツした甲殻で覆われているのだ。岩でできたこの橋もロッキーのように動き出しそうだ。

この公園で最も異世界感が強かったのが、この高架橋だった。
【カルバリの丘(Turó de les Tres Creus/三つの十字架の丘)】
坂を上って高台に出ると、石を積み上げた小高い丘に3本の十字架が立っていた。「カルバリの丘」と呼ばれ、キリストが磔にされたゴルゴダの丘を象徴している。

高台からは、イエスの塔に十字架が設置されたサグラダ・ファミリアが綺麗に見えた。

11:45 グエル公園を出る
行きたいところをすべてじっくり見て、公園には2時間15分ほど滞在したことになる。園内の「ガウディの家博物館」(別途チケットが必要)も見学する場合は、もっと時間が必要だろう。


新市街を通って、次の目的地であるカサ・ビセンスへ向かう(徒歩約20分)。時間が惜しいので、昼食はホテルの朝食会場でもらったバナナを歩きながら食べて済ませる。


12:10 カサ・ビセンス


カサ・ビセンス(Casa Vicens)について
カサ・ビセンスは、ガウディが実業家マヌエル・ビセンスの夏の別荘として設計し、1883~1885年に建設された住宅。ガウディが初めて手掛けた本格的な住宅建築であり、建築家としての出発点を示す作品だ。イスラム建築の影響を受けた幾何学的な装飾や、色鮮やかなタイルが特徴。2005年に世界遺産に登録された。
チケットを購入して敷地内に入ると、一気に南国の雰囲気。赤、白、緑、黄色といった鮮やかな色彩に、大きな開口部を設けた開放的な壁。ひまわりのような花柄のタイルも見える。


館内に入ると、精緻な装飾を施したランプが目に入り、一見して桁違いの金持ちの邸宅だと分かる。


噴水のある半屋外の空間も開放的。温暖なスペインというお国柄もあるのだろうが、都市部でこれほど外とつながった建物は初めてだ。



天井の装飾も豪華だ。青空を背景にヤシの葉が広がっているが、実はこれ、絵なのだ。写真を見返すまで本物の葉っぱだと思っていた。恐るべし、ガウディ。

隣の青と紫色の喫煙室に入って驚いた。数日前にグラナダのアルハンブラ宮殿で見た、鍾乳石のような「ムカルナス」と呼ばれる立体装飾が施されていたからだ。


まさか、ガウディの建築物でイスラム建築の影響を目の当たりにするとは。


これまで見た中で一番優雅で美しいトイレと浴室。


バスルームの窓の格子が、床に幾何学模様を描く。

階段を上ると、カサ・ビセンスに関する展示があり、その中にアルハンブラ宮殿のアラヤネスの中庭を撮影した19世紀の写真があった。数日前に訪れたばかりの場所だ。ガウディがイスラム建築から受けた影響を、思いがけない形で発見した。

独特な窓枠。カサ・ビセンスの住人は、どんな気持ちで街を往来する人々を見下ろしていたのだろう。

さらに階段を上り、屋上に出る。


初期の作品だからか、屋上スペースが狭いからか、昨日カサ・ミラの屋上で感じたガウディのコスモ(小宇宙)は感じられない。あくまで建物外観のトーン&マナーを踏襲した設計だ。


カサ・ビセンスはイスラム建築の影響が色濃く、ガウディ建築の中でも異色に映る。これは発注主の嗜好なのか、それともガウディ自身の志向なのか。どちらの意向が強かったのだろうか。

タクシーで次の目的地、サグラダ・ファミリアに向かう。
13:40 サグラダ・ファミリア着

【石の聖書】
生誕のファサードの「石の聖書」を見る。上から受胎告知、ベツレヘムの星、イエスの降誕が縦に連なり、その左右では三博士と羊飼いたちが誕生を祝う。


さらに、石の表面は植物や果実の装飾で埋め尽くされている。彫刻一つ一つは精密なのに、全体としては有機的で、成長を続ける巨木を見ているようだ。


彫刻群の中に、外尾悦郎さんが手掛けた「ハープを奏でる天使」を見つけた。ハープの弦を張るかどうかについては議論があり、最初は金属の弦を張ったものの、後に取り除き、見る者の想像力に委ねたという。


確かに、耳を澄ませば、福音が聞こえてくるかのようだ。
生誕のファサードでは、亀が柱を背負っている。しかも、雨水を口から吐き出す雨樋の機能まで備えているという。ガウディの遊び心と機能性が同居した彫刻だ。こうしたディテールを楽しんでいると、いくら時間があっても足りない。


「信仰の門」の扉をよく見ると、トカゲやハエ、鳥など、さまざまな生き物がいる。


中でも、餌をねだるヒナ鳥の姿に「生」そのものを感じる。


【生誕のファサード】
昨日は受難のファサードに上ったので、今日は午後に生誕のファサードに上る。生誕のファサードは北東向きで、午後の方が街並みを順光で見渡せるためだ。

エレベーターを降りて塔と塔の間の渡り廊下に出ると、イエスの塔が間近に見える。昨年はまだ姿を見せていなかった巨大な十字架。その存在感は圧倒的だ。


さきほど地上から見上げた、司教冠をかたどった色鮮やかなモザイクや、緑の枝葉と白い鳩の彫刻も見える。枝葉が生い茂り、石の塔がまるで土でできているようだ。


植物や果物をかたどったオブジェの周辺には仮設トイレがあり、サグラダ・ファミリアが今も建設途中であることを実感する。


10分ほど眺望を楽しみ、階段で地上へ。




【教会内部】
太陽が西に傾き始め、西側のステンドグラスが赤く輝き出した。


刻々と燃え上がる赤い光を見ているうちに、あっという間に1時間が過ぎていた。






【受難のファサード】
昨日は塔に上った受難のファサードを、今日は地上から見上げる。


十字架上のキリスト像のさらに上には、二つに裂けた布のような彫刻がある。これは、キリストが息を引き取ったときに裂けたという、エルサレム神殿の幕を表現したものだ。幕の奥には、子羊とギリシャ文字のアルファとオメガを描いたモザイク画が隠されているという。

うーん、この絵を見てみたい。
地下のショップでステンドグラスに関する書籍としおりを買い、約2時間半のサグラダ・ファミリア観光終了。

徒歩25分の距離にあるカサ・バトリョに向かう途中、少々疲れたのでレストランのテラス席で休憩。

ビールと濃厚なチョコレートケーキでエネルギー回復だ。


17:10 カサ・バトリョ
カサ・バトリョ(Casa Batlló)について
カサ・バトリョは、バルセロナのグラシア通りに建つ、アントニ・ガウディの代表作の一つ。2005年に世界遺産「アントニ・ガウディの作品群」に追加登録された。もともとは1877年に建てられた集合住宅で、繊維業で財を成した実業家ジョゼップ・バトリョの依頼により、ガウディが1904〜1906年に大規模な改築を行った。

ガウディ建築の中でも、カサ・バトリョの外観は独特だ。波のようにうねる窓枠、青いガラス窓、青や緑のモザイクがきらめく外壁。建物全体が海を想起させる。


チケットを購入して入場すると、いきなり光のショーが始まった。巧みに取り込まれた外光は、水面にきらめく太陽の光のようだ。




階段で2階に上がってキノコのような形の暖炉と豪華絢爛なシャンデリアを見ると、その先にあるのがメインサロン(主客間)だ。



バルセロナ随一の目抜き通りであるグラシア通りに面した窓は、青や紫の円形ガラスで彩られている。




見上げると、渦を巻くような曲線の天井。その中心にシャンデリアがあり、海底の宝石のように光っている。


さらに階段を上ると、吹き抜けのスペースに出た。壁一面が青いタイルで埋め尽くされている。やはりここは海だ。


ガラスの天井から光が差し込み、波打つガラス越しに見ると、世界が歪んで見える。まるで海底から海面を見上げているようだ。


真っ白な通路を抜けて、真っ白な階段を上る。世界は急に色彩を失ったようだ。


屋上に出て目に飛び込んできたのが、絵本から飛び出してきたような煙突と、鱗のような装飾に覆われた屋根だ。近づいてみると、まるでドラゴンの背中。キリスト教文化ではドラゴンは悪の象徴と記憶しているが、それを屋根に配したガウディの真意はいかに。



昨日カサ・ミラの屋上で感じたガウディのコスモ(小宇宙)は、ここにもなかった。
再び白の世界を抜け、階段を下りて地上へ。


この階段の吹き抜けを彩る金属のカーテンは、隈研吾がデザインしたそうだ。夜空の星のまたたきのように光が反射するインスタレーションは、ガウディへの敬意の表れか。


ガウディがデザインした「カサ・カルベ」へ。中に入ることはできないので、外観を見るだけ。美しい建物だが、ガウディデザインと知らなければ、通り過ぎてしまいそうだ。


20:00 百貨店「エル・コルテ・イングレス(El Corte Inglés)」
一日中歩いて疲れたので、ホテル近くの百貨店のフードホールで夕食を取ることに。ここはバルセロナに着いた日に下見してあるので、要領は分かっている。各ブースで希望の料理を受け取り、レジでまとめて精算する形式だ。




扱っている料理はスペイン料理中心。今日はサラダ、コロッケ、スペイン風オムレツ、海鮮パエリアを買い求めた(冷えた料理は電子レンジで温めることができる)。レストランに行くとどうしても気を張ってしまうので、本格的で美味しい料理を気軽に楽しめるのはありがたい。



(こんなに食べられないよ)

このフードホールは眺望もよく、眼下にはカタルーニャ広場、遠くにはサグラダ・ファミリアが見える。バルセロナの隠れた名店と言えるだろう。


21:30 旧市街
夕食を取って元気になったので、腹ごなしに旧市街を散歩。中心にあるカテドラルの周辺を歩く。雰囲気のある街並みで、なかなかホテルに戻る気にならない。




23:00 就寝
シャワーを浴び、昨日、今日と巡った、サグラダ・ファミリア、カサ・ミラ、カサ・ビセンス、カサ・バトリョの印象を反芻する。




ガウディはエンターテナー、特に「光と影の魔術師」ではないかと思う。刻々と移ろう光が織りなすショーに魅せられ、いつまでもその場を動けなかったからだ。

