トッド・ラングレンのこと
最初にトッド・ラングレンの音楽を聴いたのは、1980年代中盤、佐野元春のラジオから流れる「I Saw The Light(1972年)」と「Hello It’s Me(1972年)」だった。 フィラデルフィア・ソウル風に味付けしたメロウなメロディが新鮮で、コンプレッサーを効かせて飽和状態にあるサウンドは独特だった。ラジオでは、アルバム『Faithful(1976年)』からビーチボーイズの「Good Vibrations」やビートルズの「Rain」「Strawberry Fields Forever」のカバー曲も紹介され、その完全コピー振りに、トッドが1960年代ロックの偏執的マニアであることも知った。
1987年、それまで廃盤になっていたベアズヴィル・レコード時代のソロアルバムが米国・ライノ・レコードから一斉にリイシューされた。高校生の僕にはオリジナルアルバムを何枚も買う余裕がなかったので、同年イギリスで発売された『Anthology』というベスト盤を購入。これはトッドの1970年代の代表曲と名曲を網羅した2枚組レコードで、彼が「音の魔術師」と呼ばれる所以がよく分かる、好企画盤だった。


大学生になってからライノのリイシュー盤を一通り買い揃えたが、頻繁にターンテーブルに載るのは、『Runt(1970年)』『Runt. The Ballad of Todd Rundgren(1971年)』『Something/Anything?(1972年)』の3枚で、1990年代以降のアルバムは熱心にフォローしてこなかった不届きなファンである。
はじめてライブを観たのは、2019年 の「THE INDIVIDUALIST TOUR」東京公演。それ以来、2023年にロンドンと東京で盟友ダリル・ホールとのジョイントライブを、2025年にビルボード東京と横浜で単独ライブを観た。
2021年にロックの殿堂入りを果たした77歳のトッド。7年振りの単独ホール公演ではどんなショウを観せてくれるだろうか?
ジャパンツアー2026
会場はキャパシティ3,800人のNHKホール。昨年来日したばかりなので、なかなか強気な会場選びである。




会場は3階席までほぼ埋まっており、客電が落ちると年代高めの客席から手拍子が起こる。

1曲目は「Everybody(2015年)」。Utopia時代の盟友カシム・サルトンをベースに据えた演奏はタイトで、懐メロバンド感は一切ない。
3曲目ではやくも代表曲「I Saw The Light(1972年)」が飛び出す。「ツインギターはかくあるべし」なギターソロを堪能。
1985年以降の数曲を挟み、「Black and White(1976年)」。
ライブ中盤で、本公演が今年はじめてのライブであることが告げられ、アコースティックセットに突入。1曲目は、なんと「Cliché(1976年)」!

「Tiny Demons(1981年)」
「I Don’t Want to Tie You Down(1973年)」
「Love of the Common Man(1976年)」とトッド黄金期のオリジナル曲が続く。
シンプルなアコースティック編成だからこそ、美しい旋律が丸裸で届く。
トッドの独唱で始まった「Honest Work(1985年)」には、途中からカシムとブルース・マクダニエル(ギター)が加わり、人間臭い三声のコーラスを聴かせる。トッドのエモーショナルな面が見られてすごくよかった。

このアコースティックセットからアカペラの流れは、今夜のハイライトだ。
「Bang The Drum All Day(1982年)」では会場からパーカッション奏者を募り、舞台上で競演。楽しい演出だ。
「Kindness(1991年)」では、タクトを振って壮大なスケールのバラードを指揮。
「I’m So Proud / Ooh Baby Baby / La La Means I Love You」のフィリー・ソウルメドレーでは自身の音楽的ルーツをストレートに表現。
ザ・コールとのコラボでデジタル・リリースしたばかりの「The Walls Came Down(2026年)」。ギターリフが印象的。

本編ラストは、ユートピアの「One World(1982年)」で大団円と呼ぶに相応しいエンディング。

アンコールは「Can We Still Be Friend(1978年)」と、シャッフルビートアレンジのソウルフルな「Hello It’s Me(1972年)」。
「音の魔術師」再び
ポップス、パワー・ポップ、フィラデルフィア・ソウル、AOR、プログレッシヴ・ロック、ハード・ロックといった幅広い楽曲を、バンド、アコースティック、アカペラの多様な演奏形態で聴かせ、今夜のトッドはまさに変幻自在。
2025年の単独公演では最近の曲が始まると、「早く初期の曲を演奏してくれないかなぁ」と思ったものだが、今夜は曲の新旧を問わず、全体的にトッドの魔法が掛かっているかのようだ。
そんな「音の魔術師」の面目躍如たるショウだった。


