7:00 起床
朝食はエッグロワイヤル(エッグベネディクトのベーコンがサーモンに置き換わったもの)を注文。塩気の効いた鮭に濃厚なオランデーズソースの相性が抜群。ビタミン補給にリンゴを食べ、バナナは非常食として持ち帰る。


今回宿泊したApex City of Bath Hotelは、バース・スパ駅から徒歩10分とアクセス良好で、部屋は広く、朝食も美味しいので紹介しておこう。
Apex City of Bath Hotelの公式ホームページ↓
バースはロンドンから日帰り観光も可能な小さな街だ。今回は2泊するから、バース観光だけでは時間を持て余してしまう。さて、どうしたものかと思案している時に思い立ったのが、一昨年(2024年)8月に行ったストーンヘンジ再訪だ。前回訪問時の天気は曇り。ツアーの一環だったので、「はい、それでは90分後にバスに戻ってきてね」という感じの自由行動だったから、少々物足りなかったのだ。
今回参加したのはこの半日ツアー↓
バースに戻った後は、ヴァン・モリソンファンのFさんとランチを取り、夜はヴァンのライブを観る。
8:30 ホテル出発
ドライバー兼ガイドのクリスにホテルでピックアップしてもらう。まだシーズン前だからか、今日も貸し切りだ。バースからストーンヘンジへは車で約1時間。

人と知り合うこと
バースを発ってしばらくして、クリスに「東京で仕事は何をしてるの?」と訊かれた。早期退職後に旅先で欧米人と出会うと、頻繁に「生活のために何をしてるの?」と質問されるので、こんな風に自分の身の上話をするようになった。
- 数年前に大腸がんになった
- コロナ禍が終わった頃、割増退職金をもらって早期退職した
- そして、今ここにいる
この3行が、僕のストーリーである。大抵「それはおめでとう」と終わるのだが、病気は大丈夫なの?(完治して、今は年に一回検査を受けている)とか、家族は?(妻は東京で仕事中)、仕事は何をしていたの?(海外事業とマーケティング、財務を少々)と質問が続く時もある。そんな風に質問してくれる相手とはFacebookのアカウントや連絡先を交換して友達になることもあるから、人生はおもしろい。
僕の話を受けて、クリスも自己紹介してくれる。彼はバースの北西17kmのところに位置する港町、ブリストル出身の60歳。数年前にバースに移り住んできて、現在はアートを愛する劇場勤務のシングルマザーと一緒に暮らしている。バースの中心部は車の渋滞が酷いけど、少し車を走らせれば自然が多く、ここの生活を気に入っているそうだ。
車窓から黄色い絨毯が見えてくる。菜の花畑だ。イギリスでは4月末から5月初旬が見頃だという。


ストーンヘンジまであとわずかというところでクリスが車を停めると、「Tanks crossing(戦車横断)」の標識が。

近郊にイギリス軍の基地があり、2023年にイギリスがウクライナに戦車を供与した際、ウクライナ軍の戦車部隊が、このフィールドで戦車の操縦、整備訓練を受けたそうだ。そんなエピソードを聞くと、ヨーロッパ諸国にとって、ロシアの軍事的脅威が地政学的にいかに「近い」問題なのか、よくわかる。
9:30 世界遺産ストーンヘンジ(Stonehenge)
イギリスで最も有名な先史時代の遺跡であるストーンヘンジは、イギリス南部のソールズベリー平原にある環状列石(ストーンサークル)だ。直立した巨石は紀元前2500年から紀元前2000年の間に立てられたと考えられている。ストーンヘンジを建設した目的は、太陽崇拝の祭祀場や天文台、宗教儀式場、埋葬地など諸説あるが、未だその結論は出ていない。


ビジターセンターを抜けると、建築作業者の住居や、どのように巨大な柱石を運んだのか、復元展示がある。クリスが色々と解説してくれるが、あまりにも昔のことで現実感に乏しい。




ストーンヘンジへは「ヘリテージバス」に乗って移動する(もしくは徒歩30分)。


バスを降りると、遠くにストーンヘンジが見えてくる。広大な草原の中に屹立する巨石群は、今まで見たどんな景色とも違う。巨大な墓場とも、宇宙との交流の場とも見える。




今日は天気がよく、日の光を浴びたストーンヘッジを見ていると、天文台説を支持したい気分になってくる。


半時計廻りにストーンヘンジの周りを歩く(ストーンヘンジの周辺はロープで囲われており、近づくことはできない)。






ストーンサークルの外側には、円周上に等間隔で掘られた56個の穴(の跡)があり、17世紀の学者ジョン・オーブリーが発見したことから「オードブリー・ホール」と呼ばれる。これらの穴には火葬された人骨が多数埋葬されていたことから、紀元前3100年〜紀元前3000年頃の火葬場だったことが分かっている。


この穴には木の棒が刺さっていたと考えられている
ストーンサークルは2000年に渡って段階的に建造されており、各時代によって、埋葬地、宗教儀式場から太陽崇拝の祭祀場や天文台へと役割が変わっていったという説がある。実際にじっくりと散策してみると、それは妥当な推論だと思えた。




直立する巨石の間に楣(まぐさ)石を置き、相互に連結したものをヘンジ(henge)と呼ぶ。「ステーンヘンジ」という名称の由来は諸説あるが、この「ヘンジ」から来たとする説もある。


石はサークルごとにその産地が異なり、2024年にストーンヘンジの中心にある「祭壇石」について、およそ5000年前に700キロ以上離れた現在のスコットランド北東部から輸送されたという研究結果が発表された(それまではもっと近郊のウェールズ産だと考えられていた)。700kmといえば、東京から岡山までの距離に当たる。石なんてその辺にゴロゴロ転がっているのに、なぜそんな長距離を運ぶ必要があったのか。まだまだ分かっていないことがたくさんあるのだ。


11:20 バスでビジターセンターに戻る
11:30 ストーンヘンジ発
昨日はローマン・バスとローヤル・クレッセントに行ったと言うと、「ザ・サーカスは?」とクリス。お勧めの場所だから、ザ・サーカスで降ろしてもいいよと言うので、そうしてもらうことに。ランチは友人と「サリー・ランズ 」に行く予定だと言うと、「その店は悪くないけど、ちょっとツーリスティックだね」。いやいや、我々はツーリストだから、ツーリスティックな店でいいのだ。
12:50 サーカス(The Circus)着
車を降りると、そこは昨日ロイヤル・クレッセントに行く途中に通りかかった場所だった。サーカスはジョン・ウッド(父)が設計し、ロイヤル・クレセントはジョン・ウッド(息子)の設計だが、優雅な円の弧を使用している点が共通している。






ジョン・ウッド(息子)施工
サーカスの建物をよく見ると、潰された窓があった。これは、1696年にイングランドとウェールズで導入された、家の窓の数に応じて課される「窓税」の名残で、課税回避のために当時の家の中には窓を漆喰やレンガなどで覆ったものがあるのだ(これもクリスに教わった)。イギリスでは家は古ければ古いほど価値があるとされ、窓税が廃止されて久しい今日においても、窓が塞がれたままになっているのだ。オリジナルパーツを交換すると価値が下がってしまうビンテージギターと同じだ。

世にも奇妙な悪税である窓税は、室内が暗く、風通しが悪くなることで、結核やチフスなどの感染症が蔓延したことにより、1851年に廃止された。
この話を聞いて想起したのが、ビートルズの「Taxman」のこんな歌詞だ。
If you drive a car, I’ll tax the street
If you try to sit, I’ll tax your seat
If you get too cold, I’ll tax the heat
If you take a walk, I’ll tax your feet
’Cause I’m the taxman, yeah, I’m the taxman
-Taxman-
運転するなら 道路に課税いたします
座ろうとしようものなら 座席に課税いたします
カラダが冷えたのなら 暖房に課税いたします
散歩するなら 脚にも課税いたします
だって私は税務官、税金を徴収するのが仕事ですから
(訳責・筆者)
僕はこの歌詞をジョージ・ハリソン流のユーモアと皮肉だと捉えていたが、窓税を導入したイギリス政府ならやりかねないなと思うようになった(当時のイギリスには暖房税、レンガ税、ガラス税、壁紙税といった、冗談のような税金もあった・・・)。
「Taxman」を収録した『Revolver』はこちら↓

クリスが「ロイヤル・クレッセントは建物の裏側も見えるよ」と教えてくれたので足を延ばす。




13:10 ロイヤル・クレッセント
折角だから、ロイヤル・クレッセントの正面にも立ち寄る。




「バース・ストーン」の淡いクリーム色をした街を散策しながら、「サリー・ランズ」へ向かう。




14:00 サリーランズ(Sally Lunn’s Historic Eating House)
1482年築のバース最古の民家を利用した老舗レストラン「サリー・ランズ」(創業は1680年)でFさんとランチ。


Fさんと前回ランチした話はこちら↓

2階の席に通されると、なかなか雰囲気がある店内だった。


僕はペール・エールと「Hot Savoury Half Bunssのダブルベーコン」を注文。どんな料理かと身構えたが、温かいシンプルなオープンサンドだった。スモークしたベーコン、レタス、トマトが大振りでフワフワなパンに乗っていて、マヨネーズで味付けされている。こんなの美味しいに決まってるではないか。


ナイフとフォークでパンを切って食べながら(むずかしい)、バース観光の話(「ローマン・バスはひどかった」と、Fさんのお気には召さなかった様子)、Fさんの家の近所に咲いた桐の花の話(日本では桐の花は豊臣家の家紋)、僕の旅行の話(明後日スペインに移動する)。
お互いバース寺院に行ったことがないので、食事の後に行くことに。
食後、以前もこの店に来たことがあるFさんに地下の展示室に行こうと誘われた。地下には、17世紀当時のパンを焼く様子が再現されており、お土産を買うこともできる。




確かに少々ツーリスティックな店だったが、店内は雰囲気があるし、こんなオープンサンドは食べたことがなかったので来てよかった。
15:00 ヴァン・モリソンのアルバムジャケット撮影場所
バース寺院への道中、Fさんがヴァン・モリソンのアルバム『Down The Road』(2002年)のアルバムジャケットに登場するレコードショップ跡地に案内してくれた。

レコードショップはレトロショップになっており、壁の色も赤から緑に変わっているので、自分一人では気づかなかっただろう。これは嬉しかった。


15:10 バース寺院(Bath Abbey)
中世に建てられたバース寺院は、バースのランドマーク的存在だ。




大きなステンドグラスから差し込む光、扇形に広がる天井、パイプオルガンや十字架などを見ていると、厳かな気持ちに。
■ステンドグラス




■扇形に広がる天井


■パイプオルガンとランプ


■十字架


■地下
地下は「ディスカバリーミュージアム」になっており、中世の彫刻などが展示されている。


Fさんと別れ、ホテルで休憩した後、ライブ会場へ。
19:00 ザ・フォーラム


20:00 開演
最近のライブは「Into The Mystic」で始まることが多いが、今夜は1982年の『Beautiful Vision』収録の「Dweller on the Threshold」で幕開け。今夜もバースの観客は熱い。


■2026年4月29日セットリスト
- Dweller on the Threshold
- Snatch It Back and Hold It (Junior Wells’ Chicago Blues Band cover)
- I’m Gonna Play the Honky Tonks (Marie Adams cover)
- Madame Butterfly Blues (Dave Lewis cover)
- Crazy Jane on God
- Precious Time
- Back to Writing Love Songs
- The Only Love I Ever Need Is Yours
- Once in a Lifetime Feelings
- Real Real Gone
- Down to Joy
- Ain’t Gonna Moan No More
- Little Village
- Green Rocky Road (Traditional cover)
- Moondance
- Into the Mystic
- Early in the Mornin’ (Louis Jordan and His Tympany Five cover)
- Encore: Gloria
今夜のハイライトは終盤の「Moondance」「Into The Mystic」と、それに続くブルース「Early in the Mornin’」のカバーだった。「Early in the Mornin’」では、久々にバンドに復帰したサクソフォンのレオ・グリーンとトランペットのマット・ホランドのソロが会場を盛り上げる。

ヴァンのライブは、毎回演奏曲と曲順が変わる。大体のセットリストと演奏候補曲は決まっているが、次に演奏する曲は、ヴァンがその場で決めてバンドに指示を出すという、即興性の高いショウだ。それはまるで、枕を喋りながら客席の反応を見て、どの演目を話すか決めていく噺家のよう。だから、ファンは飽きもせずにヴァンのライブに何度も足を運ぶのだ。
21:40 終演


ツアーマネージャーP氏のところに行くと、昨夜サインをお願いしたレコードジャケットを持ってきてくれた。これまでに多くのLPレコードにサインをもらったので、今回はLPに加えてシングル盤もお願いしたところ、「御大は『Gloria』の日本盤シングルに興味を示したよ。あと、『Coney Island』の12インチシングルのジャケットは見たこともないってさ。『この女性は誰だ?』って言ってたよ」と教えてくれた。『Coney Island』が発売されたのは1990年で、確かに12インチシングルが乱発された最後の頃だけど、そんなことってある?










1:00 就寝
サインも貰えて、明日は心残りなくロンドンに戻ることができる。


