17:00 目覚め
90分の昼寝で体力回復。これからディナー付のフラメンコ・ショーを観に行く。
昨日何度も通ったアルバイシン地区の道を歩いて、丘の上のタブラオへ向かう。夕方、アルバイシンは違った表情を見せ始める。










18:00 タブラオ Jardines de Zoraya着




フラメンコショーが開催されるタブラオの庭に並んだテーブルは白いテーブルクロスに覆われており、清潔だ。チケットには18時集合とあったが、先客はいない。スターターに「100%アンダルシア産のイベリコハムとチーズの盛り合わせ」、メインに「ひよこ豆を添えたタラのグラタン」、デザートに「熟成チーズケーキ(イチジクジャムとキャラメルクランブル添え)」を選ぶ。


「ハムとチーズの盛り合わせ」は、アーモンドとドライフルーツ(ナツメヤシ/デーツ、レーズン、アプリコット)が添えられており、盛り付けも美しい。ハム、チーズの塩気とドライフルーツの甘みが相まってビールが進む。

ナッツ類とドライフルーツが添えられている



フラメンコ・ショーまであと70分。時間はたっぷりあるので、庭園を散歩すると、グラナダでよく見かける細糸杉の間に太陽が傾き始めていた。


色とりどりの花々が咲く庭は赤い壁と緑の生け垣に囲まれ、壁には花を植えた鉢が並ぶ。






席に戻ると、鈴の音のような鳥の声が聞こえてきた。気温と湿度、ともに快適だ。

しばらくしてメインの「ひよこ豆を添えたタラのグラタン」がサーブされる。ほろほろと柔らかくジューシーなタラの上には香ばしく焦げ目のついたカリカリのチーズ。二つの異なる食感がハーモニーを生む。少し甘いひよこ豆のソースを絡めると、タラの淡白な味にコクが加わる。繊細な「味変」だ。

追加注文した白ワインを飲みながら、ふと、「ここも楽園だ」と思う。日暮れまではまだ時間があり、色彩豊かな庭を見ながら食事を取っていると、近くに鳥の歌声が聞こえる。僕は今、何の不平不満もない。許されるなら、ずっとここにいたい気分。
ホットコーヒーを飲みながら、熟成チーズケーキを食べている間もその感覚は続く。添えられたイチジクジャムの酸味はよいアクセントとなり、キャラメルクランブルはチーズケーキの濃厚さを加速させる。あぁ、心地いい。幸せだ。なかなかこんな満ち足りた気分は味わえない。


豆、ナッツ、ドライフルーツなどを使った料理は、これまで食べてきたスペイン料理とはちょっと違う。なぜかと思って帰国後に調べてみると、アーモンドやドライフルーツ、ひよこ豆、イチジクなどは、地中海世界で古くから食べられ、中世のイスラム支配下のイベリア半島「アル=アンダルス」の食文化にも馴染みの深い食材だという。
一方、目の前には、イスラム教では禁じられた豚肉と酒、イベリコハムとワインもあった。昼間のアルハンブラ宮殿で見てきたのと同じように、異なる時代や文化の積み重なりが、食卓の上にも残っているようだ。
19:40 ステージのスペースへ移動


20:05 開演
ショーはギタリストのソロから始まった。繊細な爪弾きが粒立ちのよい音を奏でたかと思うと、その直後には激しいストローク。まさに緩急自在、静と動の落差に一気に引き込まれる。

右手の指は弦の上を目まぐるしく動き、低音と高音のポジションを素早く行き来する左手はギターの指板の上で踊っているようだ。
ギタリストが足で「コツ、コツ、コツ、コツ」と静かに床を鳴らしてリズムを作る。そのゆったりとしたリズムとは対照的に、ギターは次第に速度を増し、熱を帯びていく。演奏が終わった時には、会場の温度が上がっていた。
二人の男性歌手が登場。手を叩き、足を踏み鳴らしながら交互に歌い始める。笑顔でお互いを見ながら演奏する姿が印象的だ。


ギターに情熱的な歌声、手拍子、足踏みが重なり、演奏は一気に多層的になった。それぞれが別々に動いているように見えるのに、最後は全員がキレイに同時に止まる。爽快だ。
白いスーツ姿の男性と、緑地に鮮やかな花柄をあしらったドレス姿の女性ダンサーが登場。二人が踊り始めると、男性のジャケットの裾と女性の幾重にも重なったフリルが翻り、ステージが一気に華やぐ。




踊り手が「タタタッタタタッ、タタタタッ」と小刻みに床を踏み鳴らし、さらに手で胸と腿を「パパパン、パパパン、パパパパン」と叩く。ギター、歌、手拍子、足音、身体を叩く音が入り乱れる。それでも最後は全員が「ビシッ」と決め、思わず「オレ(¡Olé!)」の声が口をついて出た。


歌手が声を限りに張り上げると、それに呼応してダンスの身振りも大きくなり、動きが速くなる。ダンサーが床を踏み鳴らせば歌手が声を上げ、手拍子が煽り、ギターがさらに熱を加える。二人のダンサー、二人の歌手、一人のギタリストが互いを刺激し合い、舞台上はもの凄いエネルギーが充満している。
最後は男性ダンサーまで踊りながら歌い出し、舞台を下りて客席の前を踊りながら退場。なんとも楽しいパフォーマンスだった。
大歓声にアンコールで応える。

昨夜観た洞窟のシリアスなフラメンコとは対照的に、今夜は出演者が楽しそうに笑顔を見せたことが印象に残る。彼らが何を歌っていたのか、僕には分からないが、このフラメンコからは、喜怒哀楽のうち喜びと楽しさを多めに感じ取った。
このフラメンコショーを予約したサイトはこちら↓

21:00 終演


街の中心部へ戻る途中、サン・ニコラス展望台に立ち寄る。ここは、昨日本格的にグラナダ観光を始めたところだ。展望台は思い思いに時間を過ごす観光客で溢れ、「夜はこれから(The night is still young)」といった雰囲気。




人をかき分けて展望台の奥まで行くと、ライトアップされたアルハンブラ宮殿と、灯りのともったグラナダの街が見えた。


6時間前まで、僕はあの宮殿の中を歩きながら、異なる歴史と文化が重なり合っていく様子を見ていた。こうして夜のグラナダを見渡すと、姿形を変えながらも、時の支配者たちがアルハンブラ宮殿を残してきたことに、素直に感謝したくなった。
それだけ、この街は美しい。

21:30 街の中心部へ戻る
街は夕方とは違った表情を見せる。








多少身体は疲れているが、今日(5月3日)は「十字架の日」の当日。お祭り会場に行かない手はない。


22:00 カルメン広場
お祭り会場に着くと、舞台上では地元の人たちが歌っていた。


昨夜は女性の踊り手たちがテープの音楽に合わせて踊っていたが、今夜は生ギターを伴奏に、女性コーラスと男性コーラスが手を叩きながら歌っている。みんな口を大きく開け、その歌声は明るく開放的だ。




演奏の終盤で興が乗ってきたのか、女性コーラスの一人が踊りだした。大きく手を広げ、腰をくねらせる。フラメンコよりも、もっと根源的な踊りに見える。
決してプロフェッショナルな歌唱ではないが、みんな声を張り上げて楽しそうに歌う。これは、きっと生きる喜びそのものを歌っているのだ。



アンコールの声に応え、彼らはスペイン語で「ハッピー・バースデー」を歌う。ギタリストの誕生日だったようだ。コーラスのメンバーは誕生日を迎えた仲間に向かって、陽気に、親愛の情を込めて歌い、観客は温かい歓声を送る。僕はこれほど親密な雰囲気の誕生祝いを見たことがない。
そんな光景を見ているうちに、なぜか涙が出そうになり、少し懐かしい気分になった。

遠い親戚の集まりに参加したような気分になった
以前、2040年にはスペインが世界一の長寿国になるという予測を読んだことがある(※)。グラナダの街を歩き、太陽の光の下で地元の料理を食べ、酒を飲み、着飾って踊り、歌う人々の表情を見てきたこの2日間で、その秘訣が少し分かった気がする。
23:15 終演
幸せな気持ちでカテドラルを見ながらホテルに戻る。


24:30 就寝
※2018年に医学誌『The Lancet』に掲載されたワシントン大学IHMEなどの研究では、2040年のスペインの平均寿命を85.8歳と予測。世界195カ国・地域の中で1位になるとしている。
グラナダからバルセロナへ、雨のラ・ボケリア市場で海鮮料理を食べるDay 13はこちら↓



