今夏、オアシスの再結成ライブを観るために、七十五日にわたってヨーロッパを旅した。旅の全体像が分かりやすいので、帰国前日(七十四日目)の日記からこのブログを始めよう。
旅が終わる。毎日刺激的なことが起こって記憶がドンドン上書きされてしまい、6月21日に始まったこの旅の前半の事は、ほとんど憶えていない。いや、本当は憶えているんだけど、少なくとも意識の表層近くにはない。そんな不思議な感覚がずっと続いている。
たくさんの街を訪れ、中古レコード屋を巡ってシングル盤を漁り、写真を撮って、地元の料理を食べた。そして、何より音楽だ。
この旅は、ちょうど一年前にオアシス再結成ライブのチケットを購入した時に始まった。全公演のチケットは即完売したが、昨年秋から冬にかけてチケットマスターのサイトを頻繁にチェックしてリセールチケットを一公演ずつ拾っていくうちに、「再結成後の最初の十七公演をすべて観てやろう」と考えるようになった。ただ、この時点では7月初旬から8月中旬の一ヶ月半の旅になるはずだった。その後、6月下旬のヴァン・モリソンのディナーショウが発表され、旅の始まりが二週間前倒しになった。さらに、8月末のヴァンの80歳を祝うバースデーライブが発表されたことによって三週間延長されて旅の骨格が固まり、いつの間にか七十五日間の長旅になっていた。
幸運なことに、オアシスとヴァン・モリソンのコンサートの合間に、ニール・ヤングやスティービー・ワンダー、ザ・フー(The Who)のコンサートが発表された。



ライブのない期間は、行ってみたかった街をピックアップして観光を計画した。その結果、「ロンドン → ベルファスト → ダブリン → ロンドン → ブレナヴォン → カーディフ → バーミンガム → カーディフ → マンチェスター → リバプール → マンチェスター → ミラノ → ロンドン → 湖水地方 → グラスゴー → エディンバラ → ダブリン → コーク → ゴールウェイ → ベルファスト → ロンドン」という移動続きの行程になった。

Facebookの投稿を見た友達がマッピングしてくれた
旅行中、よく「オアシスを十七回も観て、飽きないの?」と訊かれた。確かにセットリストは全公演同じだったものの、異なる街の会場で、常に変化する天候の下、各地域ならではの盛り上がりを見せる聴衆に、毎回違った感情が引き起こされた。16年振りに再結成したバンドも、ライブを重ねるに連れて、演奏の一体感を増していった。

8月末にベルファストで観たヴァン・モリソンのライブは、長旅の有終の美を飾ってくれた。八十歳目前のベテランミュージシャンが、六日間で五回もコンサートを開くなんて普通はあり得ない。そんな奇跡に立ち会えたのもラッキーだった。

(Belfast, 8/31/2025)
たくさんの人に会った。空港、駅、ホテルやレストランスタッフ、ツアーガイドとの一瞬のやり取り、以前ロンドンや東京で知り合った友人との再会、ライブ会場で行列に一緒に並んだ人たちとの親近感、これまではオンライン上だけでやり取りをしていた、世界中から集まった音楽ファンとの出会い、こういった人たちとの温かな交流は(時々冷たいサービスも受けたけど)、疲れがちな旅に栄養を与え、前進を続ける原動力となった。よく「人には社会との繋がりが必要だ」と言うけれど、早期退職から二年半が経過した今、この異国の人達との繋がりを、自分が属する社会の一部と考えると、「随分、遠くまで来たものだ」と感慨深い。
6月中旬に自分が撮ったライブ動画をシェアするために開設したYouTubeチャネル「MASA’s From The Venue」は、9月2日現在、登録者数4,285人、総再生回数430万回の規模にまでなった。当初の想定通り、旅行中に録画したオアシスのライブ動画への反応が大半を占める。ライブ直後の深夜に動画をアップすると、翌朝には世界中のファンからコメントが殺到していた。「僕は今、アメリカに住んでるんだけど、生まれ故郷のダブリンでオアシスが演奏しているのを見られてよかった。シェアしてくれてありがとう」なんてコメントを読むと、夜鍋した甲斐があったと嬉しい気分になる。これもまた、僕が携わる新しい社会の一つである。
という訳で、旅の長さに比例して文章も長くなった。帰国して食べたいのは、やはり蕎麦屋のカツ丼です。
この旅、一日目の記事はこちら